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「いや、まだ」
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
その場に居合せた道平を見かけても、小谷はあんまり紙衣裳に気をとられていたので、それが大病の後でやつと起き出した珍しい姿だといふことに心づかなかつた。が、大分たつて思ひ出した小谷は、
間もなく房一は別れを告げ、庭前で又馬の前に立つて二三の話をし、相沢の家を立去つて行つた。相沢のやうな家を患家に持つことは、十軒もの小患家を得たに匹敵すると、ひそかに満足しながら。そして、今日のもてなし方から考へると、医者として十分好意を与へたにちがひない、といふことにも満足しながら。
入るなり、
それは言葉にするとこんな風なものであつた。
「ふむ、トンネルのハッパだな」
「うむ」
御大典とそれにつゞく奉祝日は瞬またゝくまに過ぎ去つた。
正文はそれきり黙つた。だが、練吉の妻はまだそこに片手をついたまゝ、何か答へを待つやうに老医師の方を向いていた。その眼には何か訴へるやうな非難するやうな色が見えた。正文はふと気づいた。
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、
「はン」
「どうしたんですの?何かあつたんですか」