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「ゆうべは不思議な夢をみたよ。君たちも知っている通り、大地震の翌年に僕は箱根へ湯治に行って宿屋で怪しいことに出逢ったが、ゆうべはそれと同じ夢をみた。場所も同じく、すべてがその通りであったが、ただ変っているのは――僕が思い切ってその便所の戸をあけると、中には人間の首が転がっていた。首は一つで、男の首であった。」
それが堂本だつた。
まだぎこちなく坐つて伏目に固くなつている堂本の様子から、自分が誰かといふことは判つてはいるのだなと思つた房一は、
「うん、もうさつき帰つたよ」
今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。
徳次は人の好い、いかにもさう信じこんだやうな眼で二人を眺めた。
房一は目を輝かせて云つた。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「どうですか、掛りさうかね」
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。
云ふなり又思ひ出したやうに玄関へ上つて行つた。
「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」